2012年5月22日火曜日

遍路道をさらに進む

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香川県は、平成20年から毎年春と秋の2回、「外国人のための四国八十八箇所遍路体験」を実施している。私は第1回からこの企画に携わっており、いつか四国遍路が世界遺産登録されることを祈っている。

今回の第9回遍路体験は、善通寺と多度津周辺の歩き遍路に加え、地域の歴史的な旧跡や文化的な行事を訪ねたりした。また、善通寺の宿坊での宿泊体験や、翌朝に「お勤め」を体験するなど、以前よりも盛大に開催された。

平成24年5月19日、朝早く善通寺の偕行社に8カ国のお遍路さんが集った。偕行社から、周辺の街が一望できる大麻山までバスで移動した。その頂上で、日本のもっとも古い古墳である野田院古墳で石室を見学し、ここに祀られた豪族に思いをはせた。

蜘蛛の囲を 祀る石室 古墳かな 

山から善通寺へ行き、善通寺でお遍路さんに欠かせない白衣や輪袈裟、菅笠などを身に付け、金剛杖を持って境内を見学した。日本で3番目に高い五重塔の素晴らしい建築や、善通寺の歴史などの説明をいただいてから、遍路道に出発した。

この周辺の遍路道は、広大な畑の間を通っており、その畑を抜け西に進むとだんだん急な登り坂になる。金剛杖が弘法大師の分身と言われ、それを握り歩くと、空海自身と一緒に旅をすることになる。このことを考えながら、行列の先に歩いている仲間たちが道端にあるものを踏まないように左右に動いていることに気付いた。やがて近づくと、それが何であるか分かった。

大胆な 毛虫を跨ぐ 巡礼者

今回の体験は、お寺だけでなく、地域の文化も理解する機会が組み込まれ、善通寺から出釈迦寺へ向かう途中、善通寺のフラワーフェスティバルを訪れた。近くに住んでいる方々も、遠くからいらっしゃった方々も、大勢の人が集まり、盛大な祭りを行っていた。特に印象に残っているのは、公園の入り口から丘の中腹までなだらかに傾斜している花畑にいろんな花が色とりどりで咲いていたことであった。その斜面で立ち、広がる平野を見下ろし、静かなひと時を満喫した。

丘に映ゆ チェリーセージや 初夏の景 

30分後、私たちはまた歩き出した。出釈迦寺へ登って行った。境内にたどり着き、皆でお弁当を食べた。その後、空海についての伝説を教えてもらった。「7歳の頃、出釈迦寺のすぐ南にある岳で修業をしていた時、お釈迦様に『私は仏教の道に入り多くの人を助けたい。この願いが叶うなら出てきて助けてください。できないなら、この命を仏様に捧げます。』と崖から身を投げました。そうするとお釈迦様と天女が現れて空海を救った。」という話で、「出釈迦寺」とその「捨身ヶ岳」の名前の由来が分かった。

夏景色 捨身ヶ岳へ さかのぼる

出釈迦寺の次に曼荼羅寺、それから甲山寺を回り、夕方に善通寺に帰ってきた。その夜、気持ちよくお湯に浸かり、体を元気にしてくれる精進料理をいっぱい食べ、9時に眠りについた。翌朝、5時に起床し、お寺の御影堂に集まった。そこで、善通寺の住職から法話を聞かせていただいた後、「お勤め体験」に参加した。お経を唱えるお坊さんの声がその御影堂にも心の中にも深く響いた。

読経や 心に響く 夏の朝  

菅笠と金剛杖を用意し、善通寺から出発した。次の金蔵寺で巨大な数珠を回しながら、お祈りする姿は印象的であった。前日の歩き遍路と早朝からのお勤めで、結構疲れていたので、境内木陰で一休みをした。

大楠の 木陰に憩う 夏遍路  

多度津の道隆寺が今回の体験の最後のお寺となった。お寺から、多度津駅へ最後の数百メートルを歩き、白衣と菅笠、金剛杖を回収したのち、解散した。しかし、その二日間の体験の思い出がしっかりと心に残っている。六ヶ所のお寺や古墳、街並み、山々、お花など、全部が鮮やかに心に残った。特に美しかったのは、金色に光る麦畑を練り歩くお遍路さんの行列だ。「初夏」という季節を感じながら、空海と一緒に歩いたのは本当に貴重な経験であった。

菅笠の 行列進む 麦の秋

(2012年5月19日~20日)

2011年10月29日土曜日

最も高い霊場へ

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平成23年10月29日。朝8時ごろ、香川県の西部にある観音寺市から、外国人遍路一行はバスで出発した。当日の目的地は、駅やバス停からだいぶ離れている雲辺寺であった。南に聳える山に向かい、結構な距離を走ると、大正時代の建築である豊念池ダムで休憩した。高いダムが真っ青な空に輪郭を描きだしていた。この建築物の歴史や、ダムに貯められている水の圧力を考えてみると感動すると同時に自分をとても小さく感じてきた。

秋高し  豊念池の ダム映ゆる

もう一度バスに乗り、香川県、徳島県及び愛媛県から道を集める旧曼陀峠分岐に降り立った。お遍路さんの服を身に付け、坂道を登りだした。遍路道からは、遠山の景色が素晴らしかった。歩きながら、沿道に咲いている花や青々とした木々、植物などを満喫した。

ゆらゆらと 輝く芒 道進む

遍路道を6キロ以上歩いて、四国霊場のうちで、最も高い位置にある寺院である雲辺寺にたどり着いた。澄んだ空気や古い木々に、きれいに整備されているお寺が立派だった。大師堂の近くに、マニ車というものがあり、1回まわすと、お経を1回唱えるのと同じ御利益があるとされている。参加者全員が順番に回してみた。

秋の峰 御利益恵む マニ車

お弁当の休憩を取り、残っている時間で山頂を散策した。本堂から少し離れている場所に珍しい寝釈迦や展望台、麓から頂上まで上がってくるロープウェイなど、様々な見所がある霊場であった。でも一番印象に残っているのは、五百羅漢という石で作られている仏像であった。静かで落ち着いている普通の仏像ではなく、この羅漢は変わった表情や髪の形を施し、お酒を飲んだり、爆笑したりする様子で仏様にはあまり考えられない振舞いばかりであった。この楽しい仏像群が帰り道沿いで見送りしてくれた。

初紅葉 頬赤らめる 羅漢たち

私たちは一気に急な坂道を下り、太陽の光を浴びながら豊かな自然を楽しんだ。それから、空海の遺産や遍路道の歴史を良く考えながら、霊場巡拝が持つ意味の理解を深めた。帰りのバスが待っている場所に着き、お遍路さんの服をきちんと畳み、金剛杖や菅笠をしまい、一日の歩き遍路の冒険を終了した。

(2011年10月29日)

2010年11月14日日曜日

五色台の冒険

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私たち、外国人遍路一行は、平成22年11月14日に落ちついた佇まいの国分寺に集まり、境内で参拝してから五色台の険しい坂道を登り出した。頂上に近づくにつれてハアハア言い始めたが、頂上よりちょっと下の場所で皆が元気を取り戻す体験があった。種を手のひらに置いていると周りの木々から山雀という小さな鳥がやってくるという話を聞いたので、実際にやってみると、話の通り、沢山の小鳥がやってきたのであった。手のひらに止まり、種をつつく山雀のわずかな重さを手のひらに感じると心から暖かい喜びが沸いてきた。
山雀に 種ささげては 歓喜かな  

五色台の頂上にたどり着いた後、白峯寺に向かった。ときどき、木々の間から讃岐平野に点在している小山に赤く燃える紅葉が望めた。白峯寺に到着し、本堂で参拝した。本堂の横には黄色いもみじの木が鮮やかに輝いていた。仏様の存在が感じられるようであった。

鮮やかに 残る黄葉や 白峯寺  

白峯寺から根香寺にかけて繰り返されるアップダウンを何キロも歩き疲れてきた頃に、ようやく根香寺に着いた。副住職にお寺の由来や歴史、伝説などを教えていただき、その中でも「牛鬼」の伝説の話が印象に残った。話によると、かつて周りの庶民を困らせた牛鬼は、お寺で21日祈祷した弓の射手に退治され、その鬼の角が現在もお寺に伝わるとされている。山門の横には伝説の牛鬼がかぎ爪を広げて身構えていた。

冬紅葉 じっと見つめる 牛鬼像

根香寺を去り、五色台の下り道を道なりにゆっくり鬼無駅へ行った。18キロの道を歩いてきた私たちは、本当に満足であった。
(2010年11月14日)

2010年4月24日土曜日

隠れた山寺へ


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平成18年から20年まで三豊市の豊中中学校でALTとして勤め、毎日本山寺の前にある道を通って通勤していたが、その2年間一度も境内には入らなかった。平成22年4月24日の外国人のための四国八十八ヶ所遍路体験で初めてこのお寺を訪ね、国宝である本堂のきれいな屋根と空に聳える五重塔を見ると「早く来ればよかったのに」と思った。
のどけしや 五重塔を 仰ぎけり

本山寺を出発し、北へ向かった。三豊市に点在する数多くの貯水池やゆるやかに起伏する平野を通り、次第に急になる坂道を11キロ歩いて、剣五山の麓にやってきた。山道を登り、俳句茶屋や賽の河原、金剛拳菩薩などを見ながら弥谷寺にたどり着いた。不思議に感じたのは、その山の懐に隠れているお寺は下から見えないが境内から見下ろすと三豊市全体が見えるということであった。本当にきれいな景色であった。

懐に 隠れる寺の 春うらら

弥谷寺の大師堂になる「獅子の岩屋」という洞窟で住職にお寺の歴史や文化、例えば「弥谷寺参り」という風習などについて説明していただいた。その後、弥谷寺の本堂と磨崖仏を見てから、険しい遍路みちくだりに挑戦した。路の一部が崩れ、一部が小川になっていたので下りるのが危なく感じられたが、木の枝を貫く木漏れ日はとても美しかった。海岸寺駅までの最後の6キロをゆっくりと歩き、穏やかな夕暮れの下で第5回の遍路体験はおしまいになった。
 
山裾の  林を抜ける  遍路かな

(2010年4月24日)

2009年11月28日土曜日

屋島と八栗を結ぶ秋の道


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平成21年11月28日。この曇りの朝、7カ国から集まった17名の遍路がことでん屋島駅から屋島の赤く紅葉しているふもとに向かっていった。頂上にある屋島寺に着き、本堂と大師堂で参拝をしてから、周りの自然をゆっくり満喫しながら、かわらけ投げに挑戦してみた。

北風の 谷に向かいて かわら投げ

獅子の霊巌で、涼しい風を肌で感じ、穏やかな瀬戸内海を見ながら、俳句などを静かに読んだ。

紅葉や 屋島の上で  句詠みけり

屋島から下りる前に、赤い葉が一斉にそよ風に揺れている一本木のもみじを発見した。芯の上に踊っている炎のようであった。


一本の 燃ゆる紅葉や  屋島道 

屋島の頂上から、五剣山の中腹まで歩き、八栗寺の本堂に到着した。お寺の副住職に暖かい話と温かい甘酒のお接待をいただいた。
甘酒の もてなし受ける 秋遍路


八栗寺から下りているところ、見上げると五剣山のきれいな山肌がはっきり見えた。

山粧ふ 空に聳ゆる 五剣山

(2009年11月28日)

2009年5月17日日曜日

山を越えた夏遍路


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長尾寺に集合したあと、皆でお遍路さんの白衣を身に付け、金剛杖をしっかり持った。大楠の下に立ち、お坊さんに長尾寺の歴史、例えば昔、長尾寺を庇護した高松藩主松平家の家紋が本堂に残っていることなどを教えていただいた。

長尾寺の 本堂飾る 葵紋

のんびりと前山ダムまで歩き、休憩をした。遍路サロンに入り、周りの青々とした木々を眺めながら、お弁当を食べた。また歩き始めると空の雲が厚くなり、雨が降るかと心配したが、大胆にも山道を登り出した。登るに従って、自然がより豊かになり、鳥や猿などの野生動物を見かけたり、山畑では風に揺れる麦の穂が囁いているように聞こえた。

くるくると 風に乗る鳶 麦の秋

心配していた雨はあまり降らなかったが、女体山の頂上までの道はとても大変だった。しかし、山頂に立ち美しい風景を見下ろすと、とても感動的だった。八十八ヶ所の結願である大窪寺に着いたら、皆、白衣がびっしょりぬれていたが、かなり達成感を味わった。大師堂で参拝しながら年年歳歳八十八ヶ所に挑むお遍路さんを思い、とても感謝した。

大窪寺   ぺたんと座る 夏遍路

(2009年5月16日)